
半年ごとの注射と歯の治療、どちらを優先すべきか迷う方へ
骨粗鬆症の治療で半年ごとの注射や飲み薬を続けているなかで、部分入れ歯が動くのが気になり、人工歯根(インプラント)を考えはじめる方は少なくありません。はじめにお伝えすると、骨粗鬆症があっても人工歯根を一律に受けられないわけではなく、お薬の種類や顎の骨の様子をたしかめてから決めます。
大切なのは、ご自分の考えだけでお薬や注射をやめないことです。お薬を出している主治医と歯科医師が話し合い、手術の時期や治し方を決めていく流れをまとめました。
この記事の要点まとめ
- 骨粗鬆症でも人工歯根を考えられる場合があります。顎の骨はCTで、お薬の種類や使っている期間はお薬手帳や主治医への問い合わせでたしかめます。
- お薬の種類や使っている期間、注射の予定を伝え、お薬を休むかどうかや手術の時期は主治医と歯科医師が話し合って決めます。
- 入れ歯やブリッジもふくめ、お口の炎症やからだの様子にあわせて治し方を考えます。
- 骨粗鬆症でも人工歯根は選べる?判断を分ける骨の状態と薬のリスク
- 骨粗鬆症の注射と人工歯根の手術時期|休薬を自己判断しないための注意点
- 人工歯根・入れ歯・ブリッジ、骨粗鬆症の治療中に選ぶときの考え方
- よくある質問
- 参考文献
- 監修
骨粗鬆症でも人工歯根は選べる?判断を分ける骨の状態と薬のリスク
結論:骨粗鬆症という病名だけで一律に断られる治療ではありません
骨粗鬆症という診断がついていても、それだけで人工歯根の治療が選択肢から外れるわけではありません。骨粗鬆症のある方とない方とで、人工歯根の残存率に大きな差はみられなかったと報告されています1。
ただし、人工歯根の周りにある骨の減り方には、わずかに差が出る可能性も示されています。チタン製の人工歯根が顎の骨と直接くっつく仕組み(オッセオインテグレーション)が働くためには、骨の質や量が保たれているかが関わってくるからです。「受けられるか・受けられないか」の二択ではなく、「どの条件が整えば進められるか」という視点で確認していくことが出発点になります。
歯科用CTで確かめられることと、画像だけでは判断できないこと
顎の骨の形や厚みは歯科用CTで立体的に確かめられますが、お薬が骨の作り替えにどう働いているかまでは画像だけではわかりません。歯科用CTでは、人工歯根を埋める場所の骨の高さや幅、骨のかたさの傾向、さらには下顎の神経や上顎の空洞(上顎洞)までの距離を調べます。
この時点で骨の厚みが足りない場合は、骨を補う処置(骨造成・GBR)が必要かどうかの見当もつきます。一方で、整形外科などで測る全身の骨密度(DXA検査の値)や、お薬が骨の作り替えにおよぼす働きそのものは、CT画像だけでは評価できません。ただし、顎骨壊死にともなう骨の変化などは、CTで見つかる場合もあります。そのため、画像検査の結果にお薬の情報と主治医の見解を重ね合わせて、初めて全体像が見えてきます。医療機関によっては、画像を一緒に見ながら説明を受けられます。まずはご自身の骨の状態を知ることが判断の土台になります。
飲み薬か注射か、使っている期間はどれくらいか—顎骨壊死のリスクを左右する条件
骨粗鬆症のお薬で注意したい薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)のリスクは、薬の種類だけでなく、飲み薬か注射か、どのくらいの期間使っているかによって考え方が変わります23。骨粗鬆症の治療では、骨が壊れるのを抑える「ビスホスホネート製剤(飲み薬や注射)」や「デノスマブ(注射のお薬)」がよく使われます。
これらのお薬は骨折を防ぐ大切な役割を持っています4。一方で、顎骨壊死は、抜歯など顎の骨にふれる歯科の処置や、お口の中の感染をきっかけに起きた例が多く報告されています。使い始めてからの年数や、糖尿病・ステロイド薬の併用といった条件も関わるため、処置の前にお口の炎症を減らし、一人ひとりの背景を整理しておくことが大切です。
顎の骨が溶けるとどうなる?術後に早めに連絡してほしい症状
治療のあとに顎の骨の炎症や顎骨壊死が疑われるサインが出た場合は、様子を見すぎずにすぐ歯科医院へ連絡してください23。奥歯の周りの骨が溶けたり傷んだりすると、人工歯根がぐらつくだけでなく、歯ぐきや顎全体に症状が広がることがあります。
具体的には、傷口がいつまでも閉じず白い骨が見えている、歯ぐきから膿が出る、顎の腫れや痛みが続く、下唇や顎のあたりにしびれを感じる、といった変化が目安です。初期の段階では強い痛みが出ず、「なんとなく歯ぐきに違和感がある」程度にとどまることも少なくありません。「痛むから歯科医院に行く」のではなく、小さな変化のうちに確認を受ける姿勢が、結果として顎の骨と人工歯根を守ることにつながります。
ポイント
骨粗鬆症でも人工歯根を考えられる場合はありますが、CTでわかる「骨の形や厚み」と、お薬の種類や使う期間で変わる「顎の骨が傷むおそれ」の両方からたしかめることが大切です。
骨粗鬆症の注射と人工歯根の手術時期|休薬を自己判断しないための注意点

相談前にそろえたい情報:お薬手帳に加えて注射の名前・間隔・次回の予定日
歯科医院へ相談に行く際は、お薬手帳に加えて「注射の名前・打つ間隔・次回の予定日」がわかるメモや予約票をそろえておくと話がスムーズに進みます。半年ごとの注射などは院内で処置されるため、お薬手帳にシールが貼られていないケースがあるからです。
もし薬の名前がわからなくても、処方を受けている整形外科や内科の病院名がわかれば、歯科側から確認を取ることができます。初回相談の前に、次の項目をわかる範囲で書き出してみてください。
- いま使っている骨粗鬆症の飲み薬・注射の名前(飲み薬・点滴・皮下注射など)
- 使う間隔と始めた時期(毎週、毎月、半年に1回など/何年前から始めたか)
- 最後に使った日と、次の予定日(手術の時期を決めるときに役立ちます)
- 処方を受けている病院・医院の名前と主治医のお名前
- ほかのお薬や持病があるか(糖尿病、高血圧、リウマチ、ステロイド薬を使っているかなど)
休薬するかどうかは誰が決める?骨折予防とのバランスの考え方
歯科の手術前に骨粗鬆症のお薬を一時的に休む(休薬する)かどうかは、処方している主治医と歯科医師が相談して決めるものであり、患者さんがご自身の判断で止めてはいけません。お薬を勝手にやめると、骨折を防ぐ働きが保てなくなるおそれがあるためです。
以前は休薬の期間に決まった目安が語られることもありましたが、現在ではお薬の種類や骨折のしやすさによって対応が分かれます。手術の時期も一律に決めるのではなく、注射が遅れたり途切れたりしたときの影響や、手術後の傷の治り具合をふまえて、主治医と歯科医師が話し合って決めます。再開の時期も含め、必ず医師同士の連携のもとで判断します。
整形外科と歯科の説明が違うときに、患者さんが間に入らずに済む進め方
整形外科の先生と歯医者さんで言うことがちがうように感じたときも、患者さんがあいだに入って決めることを背負わなくてかまいません。歯科医院から主治医へ「診療情報提供書(照会状)」という手紙を出してもらうと、医師どうしが書面で話を共有できます。
口頭での伝言になると、「簡単な抜歯なのか、骨を触る人工歯根の手術なのか」「次回の注射まであと何週間あるのか」といった前提条件がうまく伝わらず、意見が食い違って聞こえることがあります。書面で手術の内容や予定時期を共有すれば、双方の医師が同じ土俵でスケジュールを組み立てられます。ご自身で説明するのが不安な場合は、ご家族に同席してもらうか、最初から「主治医にお手紙を書いて確認していただけますか」と歯科医師に伝えてみてください。
手術の前に整えたいお口の状態—歯周病や炎症を減らすことの意味
人工歯根の手術を予定する場合、処置に入る前にお口の中の歯周病やむし歯、歯ぐきの炎症をしっかり減らしておくことが欠かせません23。顎骨壊死は、歯周病などの感染といった条件がある方に、抜歯のように顎の骨が出る処置を行うことがきっかけになると言われているからです。
歯科治療は原因を除去することが治癒の始まりだと考えられています。まずは専門的なクリーニングや歯磨き方法の見直しで細菌の数を減らし、傷が治りやすい環境を整えます。また、寝ている間の歯ぎしりや食いしばりがあると、埋めた人工歯根や周りの骨に強い力がかかり続けるため、マウスピース(ナイトガード)での保護をあわせて検討することもあります。
ポイント
お薬や注射を自己判断で止めると、骨折を防ぐ働きが保てなくなることがあります。お薬手帳と注射の予定日を持参し、歯科から主治医へ書面で連携してもらうことで、患者さんが板挟みにならずに時期を調整できます。
人工歯根・入れ歯・ブリッジ、骨粗鬆症の治療中に選ぶときの考え方

状況別の目安:人工歯根を検討しやすい場合と、慎重に進めたい場合
骨粗鬆症の治療中であっても、人工歯根を考えられるかどうかは、いくつかの条件を一人ひとり確かめて決めます。主治医との連携と精密検査が前提となり、主に次のような点を合わせて、時期を調整して進めるか、ほかの方法を優先するかを考えます。
- お薬の種類と量:飲み薬か注射か、がんの治療などで多い量の骨吸収抑制薬を使っていないか23。
- 使っている期間:飲み薬や注射を始めてからどのくらいたっているか3。
- お口と顎の骨の状態:歯科用CTでみた骨の厚み、歯周病などの炎症が落ち着いているか、大がかりな骨造成(GBRなど)が要るか13。
- 全身の状態とご希望:重い糖尿病など全身の回復力に関わる持病が重なっていないか、外科処置そのものに強い不安がないか2。
骨を増やす処置(骨造成)が必要になると、骨が定着するまでの待ち時間が数か月延び、体への負担や費用も増えます。無理に外科処置へ進むのではなく、「自分の家族だったらどの方法を選ぶか」という視点で、体への負担と暮らしやすさのバランスを歯科医師と一緒に考えていきましょう。
食事中に動く部分入れ歯は、調整や作り直しで変わることもあります
「今の部分入れ歯が食事中に動くから人工歯根にしたい」と考えている場合でも、実は入れ歯の調整や作り直し、設計の変更で動きが落ち着くケースもあります。入れ歯が浮いたり痛んだりするのは、抜歯したあとの歯ぐきや骨の形が時間とともに変化し、今の入れ歯との間に隙間ができていることが主な原因です。
歯を補う3つの方法には、それぞれ異なる特徴と通院・費用の目安があります。
| 治療法 | 外科処置 | 周りの歯への影響 | 通院期間・回数の目安 | 費用の目安(一般的な相場) |
|---|---|---|---|---|
| 人工歯根(インプラント) | あり | 隣の歯を削らない | 3〜6か月程度(回数はお口の状態により異なる) | 自由診療:1本あたり30万〜45万円程度(骨造成が加わると+5万〜15万円程度) |
| 部分入れ歯 | なし | バネをかける歯に負担がかかる | お口の状態や設計により異なる | 保険診療と自由診療(バネが目立たない設計や金属床など)で異なり、設計によって変わる |
| ブリッジ | なし | 両隣の歯を大きく削る必要がある | お口の状態や設計により異なる | 保険診療と自由診療で異なり、材料や本数によって変わる |
※ここに挙げた費用・期間はいずれも一般的な相場であり、当院の費用ではありません。医療機関によっては、診察のうえで費用が案内されます。実際の費用や期間はお口の状態や設計、医療機関によって異なります。
人工歯根は公的医療保険が適用されない自由診療であり、手術後の腫れや痛み、周囲炎などのリスクを伴うため、装着後も定期的なメンテナンスが欠かせません。一方、入れ歯は外科処置が不要ですが、骨吸収抑制薬を使っている間は、合わない入れ歯でできた歯ぐきの傷にも気をつける必要があります。ブリッジは固定式ですが、健康な両隣の歯を削る必要があるため、「なるべく歯を削らない」という観点からは慎重な判断が求められます。
奥歯がないままだと頬がこける?抜けた部分を放置したときの変化
どの治療法にするか迷っている間も、歯が抜けた部分をそのまま放置するのは避けたいところです。奥歯がなくなると、噛むときの刺激が顎の骨に伝わらなくなり、骨が少しずつやせて薄くなっていきます(骨吸収)。
土台となる骨と歯ぐきの高さが減ると、口元の支えが弱まって頬がこけたように見えたり、噛み合う反対側の歯が伸びてきて全体の噛み合わせが崩れたりする原因になります。また、合わない入れ歯を我慢して片側ばかりで噛んでいると、食べられるものが偏り、ご家族との外食や会話も楽しめなくなってしまいます。「衣食住」の「食」を支える奥歯だからこそ、外科処置を伴う人工歯根にするか、入れ歯を整えるかにかかわらず、しっかり噛める状態を早めに回復させることが全身の体調や笑顔につながります。
歯科医院で初回相談をするときに持参するもの・確認できること
骨粗鬆症の治療を受けながら歯医者さんへ相談に行くときは、はじめての受診でお薬手帳、注射の予定日がわかる予約票やメモ、お薬を出している病院の名前を持っていくと話が進みやすくなります。一般的な歯科医院のはじめての受診では、まずいま困っていることやご希望を聞き、歯科用CTやレントゲンなどで顎の骨の厚みや歯周病があるかなど、お口全体の様子をくわしく調べます。
検査の結果をもとに、いまの骨の状態と選べる治療法が整理されます。人工歯根がむずかしい場合でも、入れ歯の調整や作り直しを含めた治し方の計画が話し合われます。
なお、骨粗鬆症の主治医への問い合わせの手順や、検査・治療にかかる費用、通院の回数の目安は、お口の状態や受診先によって違います。受診時に歯科医師へ尋ねておくと、治療の見通しを持ちやすくなります。
よくある質問
Q. 骨粗鬆症でもインプラント(人工歯根)は大丈夫ですか?
A. 骨粗鬆症という病名だけで一律に受けられないわけではありません1。骨粗鬆症の方でも人工歯根の残存率は大きく損なわれないとする報告がある一方、使っているお薬の種類や期間、顎の骨の厚みによって注意点が異なります123。一般的には、必要に応じて画像検査や主治医への問い合わせを行います。
Q. 骨粗鬆症の注射で顎骨壊死になる確率はどのくらいですか?
A. 骨粗鬆症で使う量の飲み薬や注射では、顎骨壊死(MRONJ)が起こることはまれで、がんの治療で多い量を使う場合よりも少ないと報告されています24。ただし、これは多くの人をまとめた目安で、ご自身に起こる確率を示す数字ではなく、お薬の種類や使う期間、歯周病や糖尿病などの持病によって変わります。報告された例の多くは抜歯など顎の骨にふれる処置やお口の感染と関係しているため、お口の炎症を減らしたうえで処置の時期を主治医と相談することが大切です4。
Q. 骨粗鬆症で歯が欠けることはありますか?
A. 骨粗鬆症は顎の骨を含む全身の骨密度が低下する病気であり、歯そのもの(エナメル質や象牙質)が直接もろくなって欠けるわけではありません。ただし、歯を支える顎の骨がやせたり歯周病が進んだりすると、噛み合わせのバランスが崩れて特定の歯に強い力がかかり、結果として歯が欠けたり割れたりすることはあります。
Q. 骨粗鬆症の治療中に歯科でしてはいけないことはありますか?
A. 最も避けていただきたいのは、受診時にお薬や注射のことを伝えずに抜歯や外科処置を受けること、そしてご自身の判断でお薬や注射を中断することです2。また、合わない入れ歯を無理に使い続けて歯ぐきに傷を作ることも顎の骨への負担になるため、痛みや動きがある場合は早めに歯科医師へご相談ください。
参考文献
1. Lemos CAA, de Oliveira AS, Faé DS et al. Do dental implants placed in patients with osteoporosis have higher risks of failure and marginal bone loss compared to those in healthy patients? A systematic review with meta-analysis. Clinical oral investigations. 2023. PMID: 37043030 / DOI: 10.1007/s00784-023-05005-2
2. Mirza R, El Rabbany M, Ali DS et al. Dental Implant Failure and Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw Related to Dental Implants in Patients Taking Antiresorptive Therapy for Osteoporosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Endocrine practice. 2025. PMID: 40505730 / DOI: 10.1016/j.eprac.2025.06.003
3. Lin L, Ren Y, Wang X et al. Effects of Bisphosphonates and Denosumab on Dental Implants: A Systematic Review With Meta-Analysis. Oral diseases. 2025. PMID: 40326505 / DOI: 10.1111/odi.15373
4. 骨吸収抑制薬と顎骨壊死 | 国立長寿医療研究センター. https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/080.html
5. 政府広報オンライン「抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大!一人ひとりができることは?」 https://www.gov-online.go.jp/article/201611/entry-10538.html
広島城北高校(’90卒業) バスケットボール部
大阪歯科大学(’97卒業) 硬式庭球部
大阪歯科大学臨床研修医(1年間)
鴫野山田歯科医院(’98.4~)
奈良学園前山田兄弟歯科(’99.9~)結婚と同時に奈良県民となる
2016年5月 奈良市柏木町にてM.DENTAL OFFICE 開院
2004年 ハーマンズ東京包括歯科臨床コース(筒井昌秀、照子先生)
2005年 筒井塾 咬合コース
2006年 阿部晴彦 総義歯セミナー
2011年 大村メソッド
2013年 南清和先生コース
2016年 スーパーペリオ塾
2017年 GDS総義歯コース
2022年
FIDIハンズオンセミナー
(メガジェンインプラント)
2023年 CSTPC福岡コース
2024年 ODGC(矯正診断コース)
日本審美歯科協会
日本臨床歯周病学会
日本包括歯科臨床学会
神戸ケアクラブ
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